※この記事は 野球応援 Advent Calendar 2013の十七日目となります。
先日のブログで、野球映画に触れましたが、近年話題になった野球映画として、ブラッド・ピット主演の『マネーボール』もありますね。
この映画を語るにあたって欠かせないのが、データを駆使したセイバーメトリクスという分析手法です。
そして、今回は映画ではなく、このセイバーメトリクスを見習って編み出した、応援に関する新指標を紹介したいと思います。
いったい何に着目するのかというと、高校野球のベンチや応援席で見られる千羽鶴です。
チームに寄せられる思いの結晶とも言え、敗れたチームが、相手に千羽鶴を渡し、思いを託したりことも珍しくないですよね。
また、勝ち進んだチームの選手が「敗れたチームの分まで」という気持ちを抱いて戦いに臨むというコメントをすることもよくあります。
私はこういったエピソード、けっこう好きなんです。
そこで、チームや応援団の気持ちを千羽鶴という数値に置き換えるとともに、もしも敗れ去ったすべてのチームが千羽鶴を相手に託していったらどうなるのか……という仮説のもと、データ分析をしてみました。
各チームの「思い」を数値化するという画期的な新指標を用いたデータ分析です。
名付けて、センバーメトリクス!
……ダジャレかよ!
目次
センバーメトリクスの計算法は
では、ここでその計算法、ルールについて紹介します。
・それぞれのチームへの「思い」を千羽鶴に置き換えて計算する
・一発勝負のトーナメント大会において、各参加校が千羽鶴1組=1000羽を保持しているものとする
・勝ち進むごとに、相手チームの保持する千羽鶴を獲得する
・優勝チームはその大会の参加校分の千羽鶴を獲得することになる
「1校1000羽とか、なんて乱暴な仮定なんだ! しかも、足し算とかけ算しかしてないじゃないか! これのどこが画期的な新指標だ!」という声もあるでしょうが、とにかく、これから、今年の夏の甲子園を例に見ていきたいと思います。
センバーメトリクスで振り返る第85回大会
各代表校は、そのチームに加え、それぞれの地区で敗れ去った高校の千羽鶴を引き継いで保持していることにします(連合チームは1校と計算)。
千羽鶴の数は各地区の出場校×1000羽ですから、出場校が多い地区のほうがより多くの千羽鶴を保持して甲子園に乗り込んでいることになります。
最多は神奈川・横浜の190万羽。最少は鳥取・鳥取城北の2万5000羽です。
また、勝ったチームが敗れたチームの千羽鶴をそのまま引き継ぎますので、最終的には出場校数=3957校×1000羽=395万7000羽が、優勝した前橋育英のもとへ行くことになります。
それまでにこの395万7000羽の折り鶴たちは、どのような動きを見せたのか、より多くのチームの気持ちを背負っている高校のほうが勝っているのか……すべての対戦のスコアとともに振り返っていきましょう。
勝利チームの横にある印は、☆=千羽鶴が少ないチームが勝った場合(以下:下克上)、◇=千羽鶴が多いチームが勝った場合(以下:防衛)となっております。
まずは、すべての出場校の初戦が終わるまで(1回戦と2回戦の途中まで)を見てみましょう。
1回戦
大垣日大(岐阜/6万7000羽)4-5有田工(佐賀/4万1千羽)☆
日本文理(新潟/8万8000羽)2-10大阪桐蔭(大阪/17万9千羽)◇
箕島(和歌山/3万9000羽)2-4日川(山梨/3万8000羽)☆
☆聖光学院(福島/8万3000羽)4-3愛工大名電(愛知/18万9000羽)
◇熊本工(熊本/6万6000羽)3-2鳥取城北(鳥取/2万5000羽)
大分商(大分/4万7000羽)2-8修徳(東東京/13万9000羽)◇
☆常総学院(茨城/10万3000羽)6-0北照(南北海道/12万5000羽)
☆鳴門(徳島/3万1000羽)12-5星稜(石川/5万羽)
◇作新学院(栃木/6万4000羽)17-5桜井(奈良/4万2000羽)
☆福井商(福井/3万羽)4-3帯広大谷(北北海道/10万7000羽)
☆仙台育英(宮城/7万3000羽)11-10浦和学院(埼玉/15万6000羽)
上田西(長野/8万9000羽)5-7木更津総合(千葉/17万1000羽)◇
☆沖縄尚学(沖縄/6万3000羽)8-7福知山成美(京都/7万8000羽)
◇聖愛(青森/6万7000羽)6-0玉野光南(岡山/5万9000羽)
石見智翠館(島根/3万9000羽)1-4西脇工(兵庫/16万2000羽)◇
岩国商(山口/5万9000羽)0-1前橋育英(群馬/6万6000羽)◇
佐世保実(長崎/5万8000羽)0-1樟南(鹿児島/7万9000羽)◇
2回戦(初戦のみ)
☆延岡学園(宮崎/4万9000羽)4-2自由ケ丘(福岡/13万5000羽)
丸亀(香川/4万羽)1-7横浜(神奈川/19万羽)◇
☆日大山形(山形/5万2000羽)7-1日大三(西東京/13万1000羽)
◇花巻東(岩手/7万2000羽)9-5彦根東(滋賀/5万3000羽)
☆明徳義塾(高知/3万2000羽)2-1瀬戸内(広島/9万3000羽)
秋田商(秋田/5万羽)0-5富山第一(富山/4万8000羽)☆
☆済美(愛媛/5万9000羽)9-7三重(6万4000羽)
◇常葉菊川(静岡/11万7000羽)5-3有田工(2戦目/10万8000羽)
初戦は下克上が13試合、防衛が12試合。
ほぼ均衡した結果となりました。
ちなみに、初戦では箕島(3万9000羽)対日川(3万8000羽)がもっとも千羽鶴数の近い戦いでした。たしかに、いい試合でしたよね。
また、相手が2戦目だった常葉菊川をのぞくと、初戦で唯一双方10万羽を超える対戦を制したのが常総学院でした。
このほか、常連校・聖光学院は、相手との9万6000羽の差をものともせず、次戦への進出を決めています。
続いて、2回戦の残り試合と3回戦を見てみましょう。
2回戦(初戦以外)
日川(2戦目/7万7000羽)3-4大阪桐蔭(2戦目/26万7000羽)◇
聖光学院(2戦目/27万2000羽)1-2福井商(2戦目/13万7000羽)☆
熊本工(2戦目/9万1000羽)0-4作新学院(2戦目/10万6000羽)◇
☆常総学院(2戦目/22万8000羽)4-1仙台育英(2戦目/22万9000羽)
☆鳴門(2戦目/8万1000羽)6-5修徳(2戦目/18万6000羽)
沖縄尚学(2戦目/14万1000羽)3-4聖愛(2戦目/12万6000羽)☆
西脇工(2戦目/20万1000羽)1-3木更津総合(2戦目/26万羽)◇
☆前橋育英(2戦目/12万5000)1-0樟南(2戦目/13万7000羽)
3回戦
済美(2戦目/12万3000羽)6-7花巻東(2戦目/12万5000羽)◇
☆明徳義塾(2戦目/12万5000羽)5-1大阪桐蔭(3戦目/34万4000羽)
◇鳴門(3戦目/26万7000羽)17-1常葉菊川(2戦目/22万5000羽)
作新学院(3戦目/19万7000羽)2-5日大山形(2戦目/18万3000羽)☆
◇常総学院(3戦目/45万7000羽)9-1福井商(3戦目/40万9000羽)
聖愛(3戦目/26万7000羽)0-10延岡学園(2戦目/18万4000羽)☆
横浜(2戦目/23万羽)1-7前橋育英(3戦目/26万2000羽)◇
☆富山第一(2戦目/9万8000羽)8-0木更津総合(3戦目/46万1000羽)
2回戦では、初戦で10万羽対決を制した常総学院(22万8000羽)と初戦で春の覇者・浦和学院を破った仙台育英(22万9000羽)の僅差(1000羽差)対決がありました。
この対決を制した常総学院は3回戦では、2回戦で13万5000羽差の下克上を果たした福井商との40万羽対決を制してベスト8へ。
また、3回戦では千葉シフトが話題を呼んだ済美(12万3000羽)対花巻東(12万5000羽)という僅差対決(2000羽差)もありました。
このほか、富山第一は、36万3000羽も多く保持ししていた木更津総合を下し、富山県勢では実に40年ぶりとなる準々決勝へ駒を進めました。
ここで、ベスト8の顔ぶれと千羽鶴数を見てみましょう。
ベスト8の顔ぶれ
常総学院 86万6000羽(3試合)
富山第一 55万9000羽(2試合)
鳴門 49万2000羽(3試合)
前橋育英 49万2000羽(3試合)
明徳義塾 46万9000羽(2試合)
延岡学園 45万1000羽(2試合)
日大山形 38万羽(2試合)
花巻東 24万8000羽(2試合)
もっとも少ないのは花巻東の24万8000羽。
同校は2回戦からの登場だったこともありますが、この先、千羽鶴は果たしてどう動いていくのでしょうか!
準々決勝
鳴門(4戦目/49万2000羽)4-5花巻東(3戦目/24万8000羽)☆
明徳義塾(3戦目/46万9000羽)3-4日大山形(3戦目/38万羽)☆
☆前橋育英(4戦目/49万2000羽)3-2常総学院(4戦目/86万6000羽)
富山第一(3戦目/55万9000羽)4-5延岡学園(3戦目/45万1000羽)☆
今大会から1日4試合の開催に戻された準々決勝。
前橋育英は千羽鶴がダントツで多かった常総学院にギリギリまで追いつめられましたが、延長戦の末に逆転勝利。
この試合をはじめ、なんと、いずれも千羽鶴が少ないほうが勝利する下克上パターンとなりました。
混戦模様だった今大会を象徴していると言えるでしょう(←言えるのか?)。
そして、準決勝&決勝です。
準決勝
日大山形(4戦目/84万9000羽)1-4前橋育英(5戦目/135万8000羽)◇
花巻東(4戦目/74万羽)0-2延岡学園(4戦目/101万羽)◇
決勝
◇前橋育英(6戦目/220万7000羽)4-3延岡学園(5戦目/175万羽)
優勝 前橋育英 395万7000羽
準決勝以降は、千羽鶴が多い方が勝利する、防衛パターンとなりました。
やはり、最後の最後は、気持ち(=千羽鶴数)の差となるのでしょうか。
前橋育英の戦績
見事に深紅の優勝旗を獲得した前橋育英の戦いぶりを抜き出してみると、下のようになっています。
1回戦 前橋育英(6万6000羽)1-0岩国商(5万9000羽)
2回戦 前橋育英(12万5000)1-0樟南(13万7000羽)
3回戦 前橋育英(26万2000羽)7-1横浜(23万羽)
準々決勝 前橋育英(49万2000羽)3-2常総学院(86万6000羽)
準決勝 前橋育英(135万8000羽)4-1日大山形(84万9000羽)
決勝 前橋育英(220万7000羽)4-3延岡学園(175万羽)
一般的に不利とされる1回戦からの登場だった前橋育英。
千羽鶴をより多く持つ相手に勝ったのが2試合、千羽鶴がより少ない相手に勝ったのが4試合でした。
3回戦までは、前橋育英と近い数の千羽鶴を持ったチームが相手でしたが、一転して準々決勝は、同校より37万4000羽も多い千羽鶴を持つ常総学院との戦いに。
そして、この試合は、今大会の全試合のなかで、もっとも千羽鶴の差が覆された試合でした。
土壇場まで追い込まれてから逆転した試合内容も含め、この試合で勢いがさらについたのかもしれませんね。
下克上ベスト3は?
ちなみに、下克上ベスト3は前橋育英対常総学院の試合を筆頭に以下の通りです。
下克上ベスト3
1)37万4000羽差 前橋育英(49万2000羽)3-2常総学院(86万6000羽)/準々決勝
2)36万3000羽差 富山第一(9万8000羽)8-0木更津総合(46万1000羽)/3回戦
3)24万4000羽差 花巻東(24万8000羽)5-4鳴門(49万2000羽)/準々決勝
富山勢久々のベスト8を決めた試合や、板東対千葉の勝負が話題となった試合がランクインしました。
また、ランク外ですが、3回戦で大阪桐蔭の連覇を阻んだ明徳義塾も、21万9000羽という大きな差を覆しての勝利でした。
千羽鶴数ベスト10は?
千羽鶴数のベスト10を見てみると、次のようになります。
前橋育英以外は敗れた試合で保持していた千羽鶴数です。
ベスト10
1)前橋育英(優勝) 395万7000羽
2)延岡学園(準優勝) 175万羽
3)常総学院(ベスト8) 86万6000羽
4)日大山形(ベスト4) 84万9000羽
5)花巻東(ベスト4) 74万羽
6)富山第一(ベスト8) 55万9000羽
7)鳴門(ベスト8) 49万2000羽
8)明徳義塾(ベスト8) 46万9000羽
9)木更津総合(ベスト16) 46万1000羽
10)福井商(ベスト16) 40万9000羽
常総学院は、ベスト8ながらも千羽鶴数はかなりのものだったことが、このベスト10のランキングからもわかると思います。
395万7000羽という思いの大きさ
ちなみに、全48試合では、下克上が26試合、防衛が22試合でした。
この数字からわかることは……う〜ん、なんでしょう。
よくわかりませんね。
そもそもこのデータはあくまでも戦力ではなく「思い」を(乱暴に)計る指標ですので、試合そのものとの因果関係は不明というか、わからなくて当たり前というか……(←え〜っ!)。
ただ、今大会一の下克上が前橋育英対常総学院だったことを思い返してみると、なんとな〜く試合や大会の流れに少〜し関係があるような気がしないでもないですよね。
もちろん、たまたまそうなったという可能性が限りなく大きいですし、センバーメトリクスの数字を説得力のあるものにするには、もっとたくさんの大会のデータが必要だと思います。
まあ、数多くの大会について計算しても、何も得られない可能性は小さくないどころか、かなり大きいでしょうけど(←え〜っ!)。
しかし、しかしです。
めげてばかりはいられません。
たとえば、395万7000羽もの折り鶴が一堂に介する大会が甲子園なのだと考えると、甲子園に集う思いの大きさを感じることができるのではないでしょうか。
また、各チーム、等しく1000羽からのスタートですから、優勝校が395万7000羽(今年の場合)を獲得するまでの道のりの果てしなさもわかると思います。
これは出場校数に1000倍しているから、数字が大きく見えるというマジックなだけかもしれませんが、「思いの大きさや優勝の大変さはより伝わるのではないでしょうか」と言い訳しておきます。
2014年の夏はぜひセンバーメトリクスを
さて、今回は終了した大会について当てはめましたが、これから始まる大会でリアルタイムに計算していくと、勝敗予想の参考にはならなくても、試合観戦をより楽しむ指標にはなるのではないでしょうか……。
ただ、センバーメトリクスは、一発勝負のトーナメントのみデータ作成できるという性質上、センバツでは、計算が不可能なんですよね……。
県によっては予選にリーグ戦があり、また、1度敗れても地区大会へ進出できる秋季大会の結果をもとに出場校が選ばれるわけですから。
また、相手に思いが託されるという意味でも、予選からトーナメントで、最後の大会でもある夏こそ、センバーメトリクスにふさわしいんですよね。
つまり、リアルタイムで楽しむのなら、2014年夏の予選からです。
みなさんも、来夏は、このセンバーメトリクスを頭の片隅で意識しながら、試合を見守ってみてはいかがでしょうか?
私はその頃、センバーメトリクスのことを忘れているかもしれませんが……。